2012年8月11日土曜日

第1回 レポート分析のプロトタイピングで意思決定フローを作る (1/3)

第1回 レポート分析のプロトタイピングで意思決定フローを作る (1/3)

marketing.itmedia.co.jp | Nov 30th -0001

Webのアクセス解析は特殊なのか?

 Webサイトの分析では、ページビューやユーザー数、訪問回数、広告のビューやクリック数、売上などの指標を中心とした効果測定が一般的ですが、このような指標は経営的なコンテクストで理解するのが難しく、「なるほど」で終わってしまい、なかなか改善に結びつかないものです。「Webは制約の多い特殊なメディアなので、Webならではの指標のみを見ていれば良い」のでしょうか?

 実は、上記のようなアクセス解析で一般的な指標は技術的に取得しやすいという理由で普及しただけであり、厳選された万能の指標というわけではありません。事業やサイトによっては、一般的であっても見ないほうが良い指標もあります。見るとしても、クロス集計やセグメントなどの絞り込みが必要です。必要に応じて、事業の特性を加味したオリジナルの計算式や指標も必要になります。経営判断の参考にするためには、事業の業績を網羅的にカバーし、適切な意思決定ができるような理想の指標を定義し、技術や制約の中で理想のレポーティングを実現する方法について考えるのが効果的です。

 なお、一般的に普及している「アクセス解析」と区別するため、本連載ではいわゆる「アクセス解析」を「Web解析」(英語でのWeb Analyticsに相当)と表記することにします。

 では、どのように指標を定義すれば良いのでしょうか? 今回はメディアサイトを例に、自社のビジネスや特性に合わせて見るべき指標とレポートを定義する方法を紹介します。

1. ゴールを部署別に分解する

 まず、サイトよりも視野を広げて「事業としてのゴール」を明確にします。メディアといっても収益モデルはいろいろですが、今回はシンプルに「広告による売上の最大化」と仮定します。

 次に、事業に関わるいろいろな人たちが、全体のゴール達成に向けてどのような業務を行っているのか、について考えます。

 このような各部署のサブゴールが全体のゴール達成に貢献しているはずです(貢献しないようであれば、無駄な努力をしているか、長期的な別のゴールに貢献しているか、それともコストセンターとして機能しているかのいずれかですが、経営者やマネージャーであれば、それらを区別できることでしょう)。今回は、広告売上の最大化という短期的なゴールを短期的なサイクルで評価したいので、その短期的なゴール達成に貢献している活動やサブゴールに絞り込みました。

2.パフォーマンスはどう測定できるのか?

 各部署の取り組みのパフォーマンスは、どのような数字で評価することができるのでしょうか? 実現の可能性(難易度)は気にしないでクリエイティブに考え、リストアップしていきます。

指標
1. ニーズの高いテーマに力を入れたい テーマ別のPV÷訪問者、読了率、滞在時間、訪問者数、PV成長率、PV÷記事数、関連キーワードの検索回数
2. 最適な編集者をアサインしたい 編集者別のPV÷訪問者、読了率、滞在時間、訪問者数、PV成長率、PV÷記事数、関連キーワードの検索回数
3. ライターのパフォーマンスを知りたい ライター別の読了率、再訪問率、シェア率
4. 読んだ後の満足度を高めたい 回遊率、再訪問率
5. 反響を知って、今後の執筆の参考にしたい ソーシャル上のコメント、検索キーワード、次のページ
6. コンテンツを多くの人に届けたい チャネル別のUV、PV、SEO効果、シェア率
7. 最適な読者に広告を届けたい 枠のUV、表示率、クリック率
8. よく見られてクリックされる効果的な広告枠を確保したい サイトPVの広告表示率
9. 読みやすいレイアウトにしたい 記事のスクロール率、読了率
10. 回遊性の高いナビゲーションにしたい 訪問あたりのPV、関連リンクのクリック率

 このような測定方法について考えるということは、それぞれの活動の意義や位置付けについて考え直すということに他なりません。例えば、なぜテーマに関するニーズの高さを気にするのか? ニーズの高いテーマには高い集客力があるためですが、広告などの施策によっても集客力は変動します。また、刺激的で気になるタイトルにすることでも短期的なアクセスは増えますが、本文とのギャップが大きいと満足度が低下するのでバランスが重要です。

 などと考えていくと、このリストには抜け漏れがありそうです(思いつきベースで洗い出したので当然です)。網羅性を担保するため、別の角度で検討を進めます。

3.指標をツリー化する

 2で洗い出した指標はどのように関連し合うのでしょうか? ゴールからさかのぼって分解し、ツリーを作成します。関係性には因果関係、前後関係、足し算、掛け算などいろいろな種類がありますが、細かいことを気にする必要はありません。つなげることが重要です。

 いろいろ考えながら整理することで網羅性が高まり、無駄が減ります。項目の追加や削除をしつつ、2のリストも見直して更新します。指標がツリーのどこにもつながらずに孤立している場合は、おそらくゴールとの関連が低いので、削除しても良いかもしれません。

 なお、このツリーはサンプルであり、組織やサイトによって大きく変わります。立ち上げ直後のサービスであれば、売上を無視して会員数や新規訪問者を増やすこと自体を経営目標にすることもあるでしょう。逆に軌道に乗ったサービスの場合は、もっとコスト面を分解する必要があります。

4.顧客の行動や態度の変容をモデル化する

 3の指標ツリーを作成するにあたり、前提とした顧客の行動があるはずです。顧客にはどうなってほしいのか? 何を感じ、何を考えると、どのような行動に結びつくのか? 改めて俯瞰的に捉え直し、モデル化してみましょう。

 このモデリングは解析の要件定義が目的なので、3で整理した指標が表す行動や態度を中心に構成します。必ずしも自社の既存モデルやAIDMA、AISASなどの一般的な消費行動モデルに合わせる必要はありません。

 それぞれの指標が顧客のどのような行動や態度を表すのかが明確になってきました。例えば、コンテンツが顧客に届いた度合いである「リーチ」の指標としては、PVや訪問回数だけではなく、「ページがスクロールされて画面に実際に表示された割合」や(長いコンテンツを3ページに分割している場合なら)「最後の3ページ目まで閲覧された読了率」なども合わせて把握すると、分析の精度が高まるはず、という仮説が明確になりました。

5.分析すべきレポートを整理する

 次に、モデル化によって抽象度が高まった「指標グループ」という粒度で、誰が何の指標を見るべきかについて再整理してみましょう。

 ここで重要なのは、一番左の「切り口」です。サイト全体を対象として指標の増減を調べても、大きなヒントは得られません。数字を見て判断する人が必要とする単位で指標を区切り、区分間の「違い」に注目する必要があります。例えば上の図では、編集長はテーマ別のニーズとパフォーマンスを見ることで、テーマごとの予算配分(=力の入れ方)を判断します。また、編集者別のパフォーマンスを見ることで、編集者への指示や評価の参考にできます。同じように、各編集者は自分が担当したライター別のパフォーマンスを知りたいものです。編集者とライターにとって、協業した個別の記事ごとの詳細なパフォーマンスは、今後の記事の編集、執筆の参考になります。

 また、レイアウトやデザインなどを決めるデザイナーは、デザインテンプレートごとのスクロール率や読了率、広告枠のパフォーマンスが分かると、ページ分割の適切な単位や広告枠の位置、大きさなどを改善できるようになります。「数字が全て」というわけではなく、アンケートやインタビューなどの定性的な調査手法と併用することで、デザイン的な判断や社内での合意形成がスムーズになります。

 このように、誰が何を知ると、どのような改善アクションや意思決定につながるのか、にまで踏み込むことで、「なるほど」で終わらない意味のあるWeb解析を実現できるようになります。

6.レポートを試作し分析してみる

 誰が何のためにレポートを見て、何を分析し、どのような意思決定をするのかが明確になりました。これで、レポートの「見せ方」を決めるのも容易になったはずです。ツールでレポートを作る前にエクセルで理想のレポートを試作し、実際にそれを見て判断する人に擬似的に分析してもらうことで、レポートの有用性を検証してください。先にツール上でレポートを作ると、レポートがツールの制約を受けてしまい、本末転倒になります。

考察の例

  • 「Dropboxの驚きの機能」という記事はタイトルで釣っているため、サイトTopやメルマガ、RSSフィードでのクリック率が高く、多くの人にリーチした。しかし、訪問後のアンマッチが発生し、読了率や滞在時間など満足度を示す指標が下がった。とはいえ、ページ内に掲載された各種リンクのクリック率はそこそこあるので、サイト内回遊が発生していると考えられる。増えたトラフィックは完全に無駄だったというわけではなさそうだ。サイト立ち上げ時は、このようなパンダ的なコンテンツも必要であり、狙い通りの結果になった。
  • 「Web解析のススメ」という記事は地味なタイトルなので訪問回数は増えなかったが、滞在時間が長いのでじっくり読んでもらえたようだ。ただし、読了率が低いので、コンテンツの分量が多すぎたか、途中でつまらなくなった可能性がある(要調査)。ただし、ソーシャル上である程度シェアされているので、内容の魅力には問題がなさそうだ。はてブ率が高いのは、レファレンスとしてブックマークされたためと思われる。将来の再訪問やSEOにも貢献しそうだ。カテゴリTOPページから定常的にリンクし、効果の経年変化を確認しよう。

 これなら、多角的で総合的な判断ができそうです。同じように、5で洗い出したレポートの理想イメージを作成します。その後で、解析ツールを駆使し、必要に応じてカスタマイズしつつ、理想のレポートを実現していくのです。

まとめ

 今回は、「アクセス解析」の常識を忘れて、意思決定や経営判断につながる「Web解析」を実現するための考え方を具体的に紹介しました。ポイントをまとめると以下のようになります。

  • 企業のゴールを組織別のゴールで分解すると、アクションにつながる指標を定義しやすくなる
  • 顧客の視点で指標を構造化すると、指標への理解が高まり、網羅性を高められる
  • 複数の指標を組み合わせると、複合的な判断ができるようになる
  • 最終的なレポートをダミーデータで試作し、それが判断につながることを確かめてからWeb解析の実装を進める

寄稿者プロフィール

Adobe Systems 清水誠 Webアナリスト/PM。1995年から凸版印刷やRazorfishにて大手企業へのWebコンサルティングに従事した後、ウェブクルーで開発/運用のプロセス改善、日本アムウェイで印刷物のデジタル化とCMS導入、楽天でアクセス解析の全社展開、ギルト・グループではKPIの再定義とCRMをリード。2011年に渡米、米国ユタ州のAdobe Systemsにてデジタルマーケティング製品の品質改善に取り組むかたわら、執筆やセミナー活動も続けている。アクセス解析イニシアチブプログラム委員。eVar7共同創始者。サンクトガーレン社外CMO。ブログ:実践CMS*IA


Original Page: http://marketing.itmedia.co.jp/mm/articles/1208/08/news003.html

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