2012年5月30日水曜日

“稼げる”キーワードで前年比132%、近江牛.com|繁盛店からヒントをつかめ!ECサイト研究レポート

"稼げる"キーワードで前年比132%、近江牛.com|繁盛店からヒントをつかめ!ECサイト研究レポート

ascii.jp | Nov 30th -0001

 ゴンウェブコンサルティングでは、7つの工程を経てECサイトのリニューアルを進める。このうち、現在のサイトの強みや弱みを把握したうえで、誰に、何をアピールしていくのか考える「2.戦略立案」が要になる。そのために、アクセスログの解析などで、現状のサイトを綿密に調べる「1.環境調査・サイト分析」が重要になる。

ECサイトリニューアルの進め方(ゴンウェブコンサルティング:http://www.gonweb.co.jp

 では、「1.環境調査・サイト分析」とは、具体的に何をするのだろうか。

ターゲットや商品を見直す

 ゴンウェブコンサルティングでは、Google Analyticsなどを使いながら、次のような順序で『近江牛.com』の環境調査・サイト分析を進めた。

「1.環境調査・サイト分析」の大前提となるのは、GoogleやYahoo!などの検索サイトからの訪問者分析だ。目的のWebサイトにアクセスする場合、多くの人が検索サイトに検索キーワードを入力して表示された検索結果から目的のWebサイトを探し出す。そのため、どのような検索キーワードを使って検索しているのかは重要な情報だ。多くの人が使う検索キーワードに合致するWebサイトであれば、あるほど検索結果の上位に表示され、Webサイトに訪問してくれる率が高くなるからだ。根底にあるのはSEO(Search Engine Optimization:検索エンジン最適化)の考え方だ
「どんな検索キーワードで『近江牛.com』に来店したか」を解説する村上さん

《1》の「どんな検索キーワードで『近江牛.com』に来店したか」で検索キーワードを抽出したあと、《2》の「ユーザーをモデル化/グループ化」に進む。ユーザーのモデル化/グループ化とは、一言でいえば、"同じ興味を持つのユーザー"をまとめていく作業だ。『近江牛.com』のサイトリニューアルのディレクションを担当した村上佐央里さんはこう話す。

「『近江牛.com』へ来店してきた人たちが、〔近江牛〕、〔すき焼き〕、〔焼肉〕、〔国産牛〕、〔贈答品〕などさまざまな検索キーワードから、『近江牛.com』に来られています。もちろん、近江牛に限らず、〔松阪牛〕、〔神戸牛〕といったブランド牛を探している人もいます。このように、ユーザーがサイトに訪れる検索キーワードから目的を分析して、〔近江牛〕が目的のグループ、〔すき焼き〕のお肉が目的のグループ、〔贈答品〕が目的のグループなどに分けていきます」

 続いて、グループ化したユーザーの市場規模と市場獲得率をチェックをする《3》の「ユーザーグループごとの市場規模と市場獲得率をチェック」は、〔近江牛〕が目的のグループ、〔すき焼き〕のお肉が目的のグループ、〔贈答品〕が目的なグループなど、それぞれのグループごとに市場規模と市場獲得率をチェックしていく。簡単にいえば、「〔近江牛〕よりも〔贈答品〕のほうが市場規模は大きいが、市場獲得率は低い」というようなことを分析する。そして、《4》「ニーズ(市場規模)ごとに、どのぐらいの購入見込みがあるかをチェック」へと進めていく。その調査結果は以下の図の通りだ。

将来性のある検索キーワード

 さらに、松阪牛、神戸牛、山形牛など、近江牛以外のブランド牛を扱っているお店などを《5》の「『近江牛.com』と競合になるネットショップを比較分析」に含め、競合店よりも秀でた状況などを分析していく。

「『近江牛.com』の場合、〔近江牛〕という検索キーワードでアクセスした人は、現在のところ購入につながる人が多くいらっしゃいます。しかし、すでに市場占有率が高いため、このキーワードで集客し市場規模を広げていくには限界があることも意味しています」(村上さん)

 このように、グループ化した検索キーワードをひとつ、ひとつ精査して、今後、主力になるであろう検索キーワードを調査していく。現時点で"稼ぎ頭"の検索キーワードも、やがては成熟期を迎え、いずれは衰退していく。だからこそ、「今はまだお店に誘導しきれていないが、今後、購入見込みが十分にある検索キーワード」を、競合店の状況も確認しながら"先取り"しておかなければならないのだ。

検索キーワードを「近江牛」とすると、検索結果の上位に「近江牛.com」が表示される。お店に誘導できる、この他の検索キーワードを先取りしなければいけない

 『近江牛.com』の場合、松阪牛、神戸牛など「高級なお肉を探している人」のグループ向けのキーワードや、ギフト券、結婚式、二次会をはじめ「ギフト用のお肉を探している人」のグループ向けのキーワードなどが、今後、有力になるだろうという調査結果がまとまった

「『ギフト用のお肉を贈るから、いつもより高級なお肉を選びたい』と思うユーザーを主力ターゲットにして、彼らに訴えかけるサイトを考えながら、リニューアルを企画・制作しました。ただし、ユーザーは、高級なお肉を探している人ばかりではありません。自宅用のお肉を買いたい人もいれば、すき焼き、しゃぶしゃぶなど商品ジャンル別からお肉を選びたい人もいます。こうした嗜好の人が訪れたときも、スムーズに買い物ができるサイトを目指しました」(村上さん)

 この基本方針を具現化したのが、リニューアルしたトップページだ。贈り物を連想させるイメージ写真の下には、「お試し近江牛」、「近江牛すき焼きセット」などが並んでいる。

リニューアルしたトップページは、上部でギフトを連想させるような写真とキャッチコピーで構成しているが、その下には自宅用のお試しセットや〔すきやき〕のような検索キーワードで来店した人にもすぐに応えられるように商品を並べている

戦略が売り上げに直結した

 改めて、完成したサイトを見てほしい。

 トップの最も目立つ上部に贈答用のお肉の写真を表示し、ギフト用、高級感などを演出している。ここで注目したいのは、「贈りたいおいしさをお求めやすく」というキャッチコピーだ。

「近江牛は高級なお肉です。けれど、松阪牛や神戸牛を探している人から見れば、競合店の調査から20~30%安いので割安感があるんです。それをキャッチコピーとして強調することで、ターゲットユーザーにとってのお手頃感を演出し、セールスポイントのひとつにしました」(村上さん)

 また、メニューバーを見ると、「ギフト用商品」と並列で、「ご自宅用商品」、「サカエヤのこだわり」などが並んでいるのが分かる。そのため、初めて来店した人でも、ギフト商品だけではなく自宅用のお肉も扱っていることや、何かしらのこだわりを持って販売しているお店なのだと、すぐに分かるようになっている。

トップページの「顔」はギフトを連想させるキャッチコピー(1)と写真(2)で構成しているが、メニューバー(3)では「ギフト用商品」と並列で、「ご自宅用商品」、「サカエヤのこだわり」などを並べ、初めて来店した人でも、ギフト商品だけではなく自宅用のお肉も扱っていることや、何かしらのこだわりを持って販売しているお店なのだと、すぐに分かるようにしている。贈答用の外箱も今回のリニューアルにともなって、新しいデザインに変更している

「動線についても、ページの上の方は商品紹介コーナー、下の方はお店のこだわりを語るコーナーになるように明確に分けたので、今までよりもはるかに、見たい情報にアクセスしやすくなったと思います。棲み分けが成功したことで、本来、読んでほしかった新保さんのこだわりを述べたページのアクセスも着実に伸びています」(村上さん)

 また、旧サイトのサイトマップを作って明確になったのは、ほとんどのコンテンツがトップページからリンクがはられているため、トップページからの選択肢が多すぎて、目的のコンテンツを見つけるのが難しい構造になっていることだった。トップページに集中していた情報を整理して、表示のグループ化とサイト構造の階層化をしたことで、来店者が探している情報にたどりつきやすくなったのだ。

トップページの写真の直下から商品情報が「お試し近江牛」から「新着情報」まで続き(赤い部分)、その後に「サカエヤのこだわり」が続く。それぞれ階層をつけ、多くのコンテンツがトップページからリンクされていた旧サイトよりメリハリをつけ回遊しやすくした

 デザイン自体は、リニューアル前のサイトに比べてかなりすっきりしたが、これは、最近のECショップの"王道"なのだという。

「今のサイトは一昔前よりも、余白を活かしたデザインになっています。『近江牛.com』なら、ページ上部の『お試し近江牛』というバナーは、他のバナーより余白を多めにとって強調しています。このように、メリハリをつけて見せれば、お客さまにとっても"お店の主張"が見えて、何からクリックすればいいのか即座に分かるメリットがあります」(村上さん)

 リニューアル後の平均売り上げは、前年比132%。しっかりとした調査分析により、誰に、何を売っていくのかという戦略の結果だ。新しいサイトについて、『近江牛.com』の店主・新保さんはこう話す。

「ゴンウェブコンサルティングは、修繕の必要だったボロ家を、基礎工事がしっかりした家(サイト)にしてくれました。大切なのはその後。建てた家に"ぬくもり"を吹き込むのは店主にしかできません。良いお店、成功しているお店ほど、商品力と人間力のバランスがいい。ぼくのお店も今まで以上にその両方を追求し、お客様とのつながりを大切にしたいと思います」

供給過剰な今こそ、新たな市場を開拓

「ECサイトは1回あたりの購入金額が低くなっているのに、売り上げは横ばい。つまり出荷数が増えて忙しくなっているということなんです」と語る権さん

 2010年末現在、日本国内におけるインターネット利用率は約80%と、高齢者と小さな子ども以外、ほぼすべての人がネットを使っている。現在、国内では、これ以上飛躍的なインターネット利用率の増加は望めない。
※総務省「通信利用動向調査」より

 しかし、ECサイトの出店数そのものは、年々増加傾向にある。ネットの利用者は増えないのに、競合店はどんどん増えているのが現状なのだ。

「しかも、楽天市場では、1店舗あたりの売り上げは横ばいなのに、1回あたりの平均購入金額は2008年の7800円から、2011年の6900円と、11%も減少しているデータがあります。つまり、その分、出荷数が増え、忙しくなっているということです。この状況は、モールに限らず、独自ドメインのECサイトでも同様だと思います」(権さん)

 こんな供給過剰な時代に突入した今だからこそ、『近江牛.com』のリニューアルのように、今まで以上に、自社の強みを見極めたうえで、誰に、何を売っていくのか明確にして新しい市場を開拓していかなければならないのだ。

「右から左にモノを売る小売りは、ますます厳しくなっていくと思います。今後は、ECサイト=小売りという枠にとどまらず、ECサイトで見つけた新しいニーズを開拓したり、自分たちにしかできない新しい役割りを見い出すことが求められます。いうなれば、Web2.0ならぬECサイト2.0という段階にきていると思います」

※ ※ ※

 プロの視点を取り入れてネットショップを分析すると、店主も気づかなかった強みや弱みを改めて確認でき、今後、誰に、何を訴えていけば良いのか明確になる。中長期的な販売戦略を立てる意味でも、リニューアルなどのタイミングでプロの力を借りるのは、プラスに働く可能性が高いといえるだろう。(完)

「近江牛.com」からリンクが貼られている、牧場や生産者農家に関するあらゆる情報を掲載したWebサイト「牧場チャンネル(http://www.omigyu.com/)」。新保さんの「エシカル・ソーシング」の考え方を表したコンテンツひとつ。この他にも、新保さんは、牛糞を水田に還して飼料を作り、そこで実った牧草を牛が食べる自給飼料を推進し、「資源の循環」にも積極的に取り組んでいる。また、脂肪を注入するなどして意図的に作られた霜降り肉ではなく、赤身のお肉のおいしさを広める活動もしている。さらに、消費者の食に対する知識を向上させる方法も日々、思案している

Original Page: http://ascii.jp/elem/000/000/693/693612/

Shared from Pocket



Sent from my iPad