"会議"との上手な付き合い方 〜 経済評論家・山崎元のビジネス羅針盤
japan.internet.com | Nov 30th -0001ビジネスと切っても切れないものの1つに「会議」がある。多くの会社で、ビジネスパーソンが社内の会議に相当の時間を使う状況で働いているはずだ。
筆者の職歴は、金融関係、特にお金の資産運用の仕事に偏っているが、勤めた多くの会社で頻繁に会議が催されていた。特にお金の運用の仕事の場合、稼ぎ、即ち運用利回りは、「ファンド」と呼ばれる資産の中に入っている株式や債券が稼ぐのであって、人間が働いて直接稼ぐようにはないっていないから、会議をする時間がたっぷりあった。しかし、お金の運用の仕事以外で、総合商社や外資系の証券会社のような職場でも、様々な会議があった。
あらかじめ申し上げておくと、筆者は当時会議が好きではなかった。物事には往々にして2面があるので、後に会議の良さと価値についても補足するが、はじめに会議の弊害から述べてみたい。
まず、会議は多くの場合、出席者にとって時間の無駄だ。かつてヒットした『踊る大捜査線』(主演は織田裕二さん)という映画の有名な台詞に「事件は会議室で起きているんじゃない。現場で起きているんだ!」というものがあったが、社内の会議の最中、参加者は自分の仕事を進めることが出来ない。
この点を考えると、会議は、たとえば出席者が20人で時間が1時間なら、20人の時給分のコストが掛かっているのだと考える必要がある。明確にこれを上回る価値がある会議でなければやってはいけないし、必要のない参加者を会議に拘束してはいけない。
大人数の会議になると、その会議を行うための準備にも相当の時間が掛かることがある。筆者が勤めていた運用会社では、全社の「運用会議」の準備のための会議として「運用企画会議」という名前の会議が存在していたし、運用会議に使う資料の作成は、若手社員にとってしばしば重労働だった。
しかも、会社の会議では、議論が噛み合うとは限らない。出席メンバー間で、前提となる知識や経験、責任などに大きな差があると、実質的に話に参加できるのは会議の出席メンバーの中のごく一部であることが少なくない。残りのメンバーは話が終わるのを待つだけの時間を過ごすことになる。
それに、これは筆者の個人的な印象だが、仕事を進める上での「いい考え」は、ある程度以上の専門性を持った深いレベルのものになると、1人で集中的に考える時間を持たないと作り出せないことが多いように思う。
● 弊害を無くする「会議対策」
筆者の長い職歴の中で、会議というものはどちらかといえば邪魔なものであった。しかし、いくら筆者は会議が嫌いだといっても、現実に会議は存在したし、会社にとって、時には会議が必要な場合があるのも確かだ。主に、会議の(主宰者ではない)1メンバーである場合に、会議の弊害を減らすための対策を幾つかお伝えしよう。
【会議の対策1】会議はなるべく出ない
会社の会議には、(A)何かを決めるための会議、(B)アイデアを出すための会議、(C)周知徹底のための会議、の3種類がある。これらのうち、どうしても出なければならないのは、(A)の中でも自分が決定内容に影響する可能性のある会議だけだ。
後の会議は、結論を後から聞くとそれで用が足りる場合がほとんどだ。もちろん、アイデア出しの議論が自分にとって刺激的だったり、会議で説明を聞く方がよく分かったりする場合にはありがたく会議に出るべきだが、そうでない場合は会議に出ずに済ますことはできないかを考えよう。「後から結論を聞けば用が足りる」か否かが、出なければならない重要な会議かの判断基準だ。
欠席の方法は、「私には必要ない」と堂々と説明する方法、別の用事をぶつけて欠席に持ち込む方法など様々であり、これは組織内のご自分の立場とビジネスパーソンとしての才覚で決めて欲しい。
但し、会議に欠席している時間は、会議に出席するよりも有効な時間の使い方をしていることが自他共に分かるような働き方が必要なので、この点の覚悟はしっかり決めよう。
【会議の対策2】資料を簡略化する
会議やプレゼンテーションのために準備する資料は、話し手の自信の無さに比例して分量が増える傾向がある。パワーポイントに文字とグラフがびっしり書き込まれた分厚い資料が出てきたら、そのプレゼンテーションには期待しない方がいい。
資料を必要な内容だけ(議事の項目と、説得の中心的根拠となるデータだけ)簡略化して、会議の場にあって言葉で説明して議論する方が、話も理解されやすいし、準備の時間が節約できる。
若手社員の場合は、上司に資料作成を命じられることが多いかもしれないので、資料を自由に簡略化できないかも知れないが、無理にならない程度に一踏ん張りしてみて欲しい。
筆者は若い頃、「ヤマザキ、資料はまだか。資料、資料…」と資料に頼って会議で発言するタイプの上司に資料作成を命じられた時に、「話すことをわざわざ書いて渡す必要もないのではないですか。話に自信があれば、詳細な資料はいらないはずです」とこの上司の弱点を指摘して、その後の資料作成がぐっと楽になった経験を持っている。
【会議の対策3】論点を整理する質問をする
噛み合わない議論、あるいは意見とも感想とも情報ともつかぬ発言がだらだら続く会議は少なくない。こうした会議に出てしまった場合、「AさんはXだと仰っていますが、これに対してBさんのご意見はYのようです。お二人のご意見の正否はZに掛かっているように思いますが、ちがいますか?」といったタイプの、論点を整理して結論に追い込む質問をするといい。
将来決断を下す立場になった場合には、論点整理が出来て決定を下せるようにならなければならない。そのための練習にもなるし、会議の時間短縮効果もあるので、出席メンバーの多くに感謝されるはずだ。
これらの対策の他に、若き日の筆者は、議事に手の出しようのない会議に出る場合、手元に会議中でも出来る仕事や読むのに時間が掛かる参考資料などを持っていて、会議とは別のことに頭を向けていたが、後から振り返ると、これは自分の仕事が効率よく捗らないし、時に他のメンバーに気付かれて気まずい思いをしかねないリスクがある方法だった。これは、「会議の対策4」にはしないでおく。
● 会議好き経営者の会議法に学ぶ
会議のことを考えながらビジネス誌を見ていたら、ある有名経営者が、まさに社内の会議をテーマとする文章を寄稿していているのを見つけた。彼は毎日8件の会議をこなしていて、その多くを自分で仕切り、決断を下しているので、脳がフル回転しており、会議の数を減らそうとは思わないと書いている。
筆者と大きく異なるのは、「素晴らしいアイデア」は、ほぼ全て会議から生まれているとの印象をお持ちである点である。その経営者は、「会議中のアイデアは、参加者による問題点のチェックやブラッシュアップが容易なので、実現可能性の高いものになりやすい」と、「会議」の効用を述べている。
筆者と、会議に対する印象の違いが出来た理由の一つは、彼が経営者で、自分で会議を「仕切る」ことが出来たからだろう。ただ、彼の文章を読んで、もう1点重要なことに気がついた。
この経営者氏は、「私は会議の参加人数は多くても8人までに抑えないと活発な意見交換は出来ないと考えています」と言っている。つまり、会議の目的を、活発な意見交換によるアイデア出しと行動の決定に絞って、そのための会議の活用方法を考えていることが分かる。確かに、こうした経営者が仕切る会議なら、会議嫌いの筆者でも有意義な意見が生まれるような気がする。
● 会議の運営者による会議対策
先の会議対策に続けて、今度は、自分が会議の主宰者や議事進行役など運営者側の場合に出来る会議改善策を付け加えよう。
【会議の対策4】会議の目的に合わせて出席メンバーを選ぶ
先の会議好きの経営者が主宰する会議が、少なくとも本人にとって上手く行っている理由は、会議の直接的な目的を「活発に議論すること」と明確にして、参加メンバーをコントロールしているからだろう。
多くの会議が、決定のための会議なのか、アイデア出しの会議なのか、周知のための会議なのか、会議の目標を曖昧にしたり、複数に設定したりするために、余計なメンバーの参加が増えて、非効率化し、緊張感の乏しいものになっているように思える。
ちなみに、周知徹底のための会議の場合には、多くの社員を集めることがあってもいいが、その場で長々議論をすべきではないし、発言時間を厳しく管理して、できるだけ短時間で会議を終えるべきだ。
【会議の対策5】無駄な発言をあらかじめ除外する
最後に、ある会社で筆者が会議の議事進行役を務めた時に、上手く行った工夫をご紹介する。筆者は、会議の冒頭にこう言った。
「この会議は、今月の○○の方針を決めるために行います。活発な議論を期待しますが、ご発言にあたっては、その発言がご自分の意見なのか、外から得た情報の提供なのか、業務の指示なのかが分かるようにお願いいたします。尚、出席人数も多く時間は貴重なので、これらの何れにも該当しない単なる感想のご発言はご遠慮頂きたいと思います」
人数の多い会議では、どうしても「偉い人」が多く発言するようになるが、その多くがその場の感想や他人から聞いた話の受け売りであり、これが無駄に時間を食う。偉い人の感想語りをあらかじめ封じた効果で、この日の会議は、すっきりサクサク進行できた。「作戦成功」を感じることができた、思い出の1コマだ。
【筆者紹介】
山崎 元(やまざき はじめ):経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員。58年北海道生まれ。81年東京大学経済学部卒。三菱商事、野村投信、住友信託銀行、メリルリンチ証券、山一證券、UFJ総研など12社を経て、現在、楽天証券経済研究所客員研究員、マイベンチマーク代表取締役。
※この記事は、リクルートエージェントのウェブサイト「ビジネス羅針盤」に掲載された内容をjapan.internet.com 編集部が再編集したものです。リクルートエージェントの転職支援サービスについては http://www.r-agent.co.jp/ をご覧ください。
記事提供:リクルートエージェント
Original Page: http://japan.internet.com/busnews/20120302/2.html
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