DeNAが実践する「マネーボール」
by Ryuichi Nishida, jp.techcrunch.comNovember 30th -0001

ソーシャルゲームについて世間では騒がしくなっているようだが、今日の話題はDeNAなのだが、ソーシャルゲームではない。プロ野球である。TechCrunch Japanには似つかわしくないのかもしれないが、これもテック業界の周辺にある話題だと僕は考えている。なにせ12球団中3球団はテック企業が運営するチームである。ソフトバンクや楽天が球界入りしたときにも感じたが、かつてはCM以外には聞くことのなかったDeNAの名前が連日スポーツニュースで連呼されるのはなんだか奇妙であった。ただそれも慣れてきた。社名を簡単に覚えさせる人気スポーツの力は絶大だということなんだろう。
ところで、DeNAがプロ野球チームに参入するとなると、数字にめっぽう強い彼らのことだから、そこにはなにか勝利への秘策があるんじゃないかと僕は勘ぐってしまう。おりしも、DeNAがプロ野球に参入するのを決断した時期に公開された映画「マネーボール」のアスレチックスにオーバーラップしなくもない。ここ数年、最下位に甘んじていたチームの経営者に就任した横浜DeNAベイスターズ社長の池田純氏にその秘策について聞いてきた。
彼曰く「Mobageに限りなく似ている」のだそうだ。なにかと言えば、ベイスターズの企業としての経営が、Mobageで培ってきたマーケティング手法につながるのだという。池田氏はマーケティング部門の執行役員として、Mobageの成長に必要なマーケティングプランに携わってきた。テレビCMや各種の広告が最終的にどういうコンバージョンにつながるかの仕組みづくりを実践してきた。今回の経営者としての目標は、まずはベイスターズという企業を黒字化させたいという強い思いである。
それをもっとも早く達成する方法は、いま売り上げているものを膨らますことだ。それはチケットで、試合を見に来場者を増やし、ファンクラブに入ってもらって、また球場に足を運んでもらうことなんだそうだ。そのサイクルは、Mobageの会員になってもらうことと同じだということである。
「経営を立て直すためには、いまあるものを膨らませる、つまり、もともとあった収入源のパイを大きくしていきましょうということです。となると、チケットが大きい。ただ、チケットの販売の中心はプレイガイドなんですね。それを大きくするためにはネットを活用して自社で直接売っていったほうがいい。そうなるとウェブサイトへの集客が必要です。サイトに一度来てくれた人に2回目に来てもらうにははどうするのか。球場に直接来てくれた人が次回にネットで購入してくれるにはどうするか。ネットでファンクラブに入会してもらうにはどうするか。そこにはコンバージョンという概念がないのだと思います。"コンバージョン"がどれぐらなのかというのはネットのやり方で、その数字についてはネットの考え方のほうが緻密です。野球の業界にはない」
そういうこれまで培ってきた方法を活かしていく経営についてはわかった。ただ野球ファンとしては球団チームが儲かっているかどうかよりも、そのチームが勝ってくれるかどうかのほうが重要だ。映画「マネーボール」ではブラッド・ピット演じるオークランド・アスレチックスのGM(ジェネラルマネージャー)が、セイバーメトリクスという手法を使うことによって、財力のないチームであっても勝てるチームを生み出していく。
ベイスターズは高田繁氏をGMに置いているので、池田氏は経営者としてチーム作りについては高田氏に一任しているという。ただ、セイバーメトリクスのような手法は取り入れていくという。それと合わせてサンフランシスコ・ジャイアンツで働いていたハーバード大学出身の嘉数駿氏を招き入れている(このあたり映画とオーバラップする)。さらには、選手だけでなくすべてを統合するシステムを構築しているんだそうだ。
「野球の世界はなんでも紙なんですね。ファームでの選手の仕上げの感想もファックス、スカウトからどこかの大学の選手についてのレポートもファックス。それだと時間をロスしてしまうんです。アナログの世界はやめて、一個のシステムでデータを全員が見られるようにしようと思っています。みんなにiPadを配布して、ベースとなる球団のシステムを見られるようにします。選手についてもプレイや試合のデータだけでなく、メディアへの露出だとかそういったことも加点ポイントにして、年俸が決まっていく複雑な計算式なんかも入れていきます。ほかにも、スカウトが動画をとって有望な選手のデータをアップロードするだとか、スコアラーが試合のデータを入力するだとか、それを一個のシステムにします。つまり、これはベースボールオペレーションシステムとも言えるものです」

ただ、この複雑で大掛かりなシステムを作っているのが、あの高額な給与で集められた頭脳集団のDeNAのエンジニアではなくて、ベイスターズが独自にパートナー企業と連携して開発しているのだそうだ。このあたり、ビッダーズに公式オンラインショップはあるものの、DeNA本体と企業としてのベイスターズには距離感があるようにも感じる。それは、これまでの親会社が資金を補填する球団経営の仕組みから脱却しようとしているからなのかもしれない。
いずれにせよ驚いたのは彼はDeNA流のやり方を今回の野球でそっくり当てはめる気はないことだ。僕が言うDeNA流というのは、数字の積み上げでビジネスを作り上げてきた経営方法である。多くのソーシャルゲームは複雑な数字の組み上げで成り立ったバランスの上でできているように思える。しかし、それではうまくいかないというのは彼の本音を聞けば当然のことなのかもしれない。
「人に夢を与える仕事なわけですよ。数字ばっかり綿密に分解していく世界ではないのです。心の揺れでチームの強さは変わるんです。いまでも監督が(中畑清氏に)変わって、球団運営も変わって、雰囲気が変わるだけでいまのようなチームになるんです(編集注:オープン戦では好成績だった)。これはドライなことやっているいまのDeNA流では分析ではできない。ソーシャルゲームのようにどこかのキーとなるドライバーをいじった数字ではたたき出せないものがあるんですね、野球チームを経営するということは」
お約束のMobageとの連携についても「球団を買ってその流れをどう見せていくのかは(球団を買ったDeNA本体としての)Mobage側の課題です」とそっけない。ただ、知名度とかブランドを上げるからにはDeNA本体と最大限の協力はしていきたいということだった。そこにはMobageとは違った野球というゲームの世界があるようだった。
プロ野球は今日から開幕戦である。そして、DeNAのマネーボールはまだ始まったばかりである。
追記:横浜DeNAベイスターズのウェブサイトは今日リニューアルされて、試合のチケットが買えるようになっている。
写真はすべて映画「マネーボール」より
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Original Page: http://jp.techcrunch.com/archives/jp20120330dena-money-ball/
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